成年後見制度の「終身制」廃止が、法改正によって現実のものとなりつつあります。2025年に成立した改正法(民法等の一部を改正する法律)により、後見制度は「必要な期間だけ利用できる柔軟な制度」へと転換される方向が明確になりました。この改正は、後見人を使いたいときに使い、不要になれば終了できる仕組みへの大きな転換点であり、認知症への備えや終活を考えるすべての方に関係します。
成年後見制度「終身制」廃止——法改正の要点
- 2025年成立の改正法により、後見開始後も「必要性がなくなれば終了できる」制度へ転換される(施行時期は段階的に予定)
- これまでは原則として本人が死亡するまで後見が継続する「終身制」が問題視されてきた
- 改正後は後見人の選任が一時的・限定的な利用にも対応できるよう見直される
- 任意後見制度(元気なうちに自ら後見人を選ぶ制度)の重要性は改正後も変わらない
- 後見制度だけで老後のすべての不安が解決するわけではなく、身元保証・死後事務との組み合わせが引き続き重要になる
1. 成年後見制度「終身制」とは何か——改正前の問題点

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が低下した方の財産管理や法律行為を、後見人が代わりに行う民法上の制度です(民法第7条以下)。家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産保護や契約締結を支援します。
「終身制」とは
改正前の成年後見制度では、いったん後見が開始されると、原則として本人が死亡するまで後見関係が継続しました。判断能力が回復した場合でも手続きが必要であり、また「財産管理だけを短期間サポートしてほしい」といった限定的な利用が難しい構造になっていました。この「終わりのない後見」が「終身制」と呼ばれ、制度利用をためらわせる要因の一つとして長年指摘されてきました。
具体的には、次のような点が制度の課題として指摘されてきました。
- 必要性が薄れても後見が継続し、本人の自律的な意思決定が制限され続ける
- 後見人(特に弁護士・司法書士などの専門職後見人)への報酬が毎月発生し、長期にわたって財産が減少する
- 家庭裁判所の選んだ専門職後見人と本人・家族の間でコミュニケーション不足が生じやすい
- 施設入居や不動産売却など「特定の目的」のためだけに利用したくても、制度の性質上それが難しかった
こうした問題を受け、法務省は成年後見制度の抜本的な見直しに着手し、2025年の改正法成立へとつながりました。
2. 法改正の内容——何がどう変わるのか

2025年に成立した改正法(民法等の一部を改正する法律)は、成年後見制度の「終身制」を廃止し、本人の状況に応じて後見を終了できる仕組みを導入することを柱としています。改正の全容は段階的に施行されるため、最新の施行状況は法務省の公表資料で確認することが必要ですが、主な改正ポイントは以下のとおりです。
| 改正前 | 改正後(方向性) |
|---|---|
| 後見は本人の死亡まで原則継続(終身制) | 後見の必要性がなくなった場合に終了できる |
| 一度選任された後見人の交代・終了は家裁の判断に依存 | 目的が達成されれば後見を終了する手続きが整備される |
| 財産管理・身上監護を広範に後見人が担う | 本人の意思・自律を尊重した支援に重点が移行 |
| 任意後見と法定後見の連携が不明確な場面あり | 任意後見を優先する運用がより明確化される方向 |
改正の適用と施行時期に関する注意
2025年成立の改正法は、内容によって施行時期が異なります。すでに後見が始まっている方・これから申し立てを検討している方は、法務省または家庭裁判所の案内を確認してください。改正内容がすべて即日適用されるわけではありません。本記事執筆時点の情報をもとにしており、詳細な運用は今後の政省令・通達によって定まる部分があります。
「任意後見制度の優先」という考え方
改正の方向性として一貫しているのは、「本人が判断能力のあるうちに自ら後見人を選んでおく任意後見制度を優先する」という考え方です。任意後見制度(任意後見契約に関する法律に基づく)では、元気なうちに信頼できる人や法人と公正証書で契約を結び、判断能力が低下したときに家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が発生します。
法定後見(家庭裁判所が後見人を選任する)は、任意後見の準備がなかった場合や緊急性が高い場合に補完的に用いられる制度として位置づけられています。今回の改正は、この「自分で選ぶ」という方向性をさらに強化するものといえます。
3. 法改正が「おひとりさまの備え」に与える影響
「終身制」の廃止は、制度をよりシンプルに使いやすくする改革です。しかし、改正によって後見制度が万能になるわけではありません。後見制度が担う役割と、それ以外の備えが担う役割を整理しておくことが重要です。
後見制度と身元保証・死後事務の役割の違い
成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産管理・法律行為を支える制度です。一方、入院や施設入居の際に求められる「身元保証」、亡くなった後の葬儀・片付け・各種解約を行う「死後事務」は、後見制度の対象外です。後見人がいる場合でも、身元保証や死後事務を誰が担うかは別に決めておく必要があります。
当法人にご相談いただく方の中にも、「成年後見を利用しているが、施設入居の保証人を頼める人がいない」「後見人はいるが亡くなった後の手続きを頼む相手がいない」といった状況の方が少なくありません。後見制度の改正は重要ですが、それと並行して死後事務委任契約や身元保証の備えを整えることで、老後の不安をより包括的に解消できます。
改正後も「任意後見契約」は引き続き有効な備え
法改正の方向性が任意後見制度の優先を明確にしている以上、「元気なうちに自分で後見人を決めておく」準備の重要性は改正後も変わりません。任意後見契約は公正証書による締結が必要で、効力は家庭裁判所による任意後見監督人の選任後に発生します。
なお、任意後見契約の締結だけで老後のすべての手続きが完結するわけではなく、以下の備えと組み合わせることが一般的です。
- 事務委任契約(元気なうちから生活上の手続きを任せる)
- 財産管理委任契約(預託金等の管理方法を定める)
- 医療・介護に関する意思表示(治療方針の希望を伝える文書)
- 死後事務委任契約(亡くなった後の葬儀・片付け等を依頼する)
- 公正証書遺言(財産の遺し方を定める)
4. よくある質問(FAQ)
Q. 「終身制」廃止によって、すでに後見を受けている人の後見は自動的に終了しますか?
A. 自動的には終了しません。改正法の施行後も、既存の後見については所定の手続きを経る必要があります。終了を希望する場合や状況が変化した場合は、家庭裁判所または専門家(弁護士・司法書士等)に相談することが必要です。改正の詳細な適用関係は、法務省の公表資料や家庭裁判所の案内を確認してください。
Q. 任意後見契約を結べば、身元保証も兼ねてもらえますか?
A. 任意後見人は身元保証人とは異なります。病院や介護施設が求める「身元保証」は、緊急連絡・費用精算・退院退去時の対応・ご逝去後の身元引受けなどを指しており、任意後見人の職務範囲(財産管理・法律行為の代理等)とは別の役割です。任意後見人がいる場合でも、身元保証については別途確認・契約が必要なケースがほとんどです。
Q. 認知症と診断されたら、すぐに後見を申し立てなければなりませんか?
A. 認知症の診断だけですべての契約ができなくなるわけではありません。判断能力は程度により異なり、必要な行為の内容や本人の状態に応じて専門家に相談することが重要です。後見申立ては必要性と緊急性に応じて検討するものであり、すべての認知症の方に一律に必要というわけではありません。
Q. 後見制度を使わずに、判断能力が低下したときの財産管理を備えるにはどうすればよいですか?
A. 判断能力が低下する前に任意後見契約(公正証書)を締結しておくことが代表的な方法です。元気なうちは事務委任契約や財産管理委任契約で必要な手続きを任せ、能力低下後は任意後見契約が発動する仕組みを組み合わせることが一般的です。いずれも公正証書による締結と、家庭裁判所の手続きが一部に必要になります。
Q. 後見制度の改正によって、死後事務委任契約の必要性はなくなりますか?
A. なくなりません。成年後見人の権限は原則として本人が生存している間に限られ、亡くなった後の葬儀手配・遺品整理・各種解約・費用精算などの「死後事務」は、後見の対象外です。死後事務は死後事務委任契約によって別途備える必要があります。
5. 法改正をふまえた「今できる備え」の整理
成年後見制度の「終身制」廃止は、制度をより使いやすくする改革です。しかし、この改正だけで老後の不安がすべて解消されるわけではなく、判断能力が低下したときの備えを「自分で選んでおく」重要性はむしろ高まっています。
| 備えの内容 | 担う役割 | 準備のタイミング |
|---|---|---|
| 任意後見契約(公正証書) | 判断能力低下後の財産管理・法律行為の代理 | 判断能力があるうちに |
| 事務委任契約 | 元気なうちから生活上の手続きを任せる | 判断能力があるうちに |
| 医療・介護の意思表示 | 治療・介護に関する希望を伝える | 判断能力があるうちに |
| 身元保証契約 | 入院・施設入居時の連絡・保証・対応 | 入院・入居の前、または早めに |
| 死後事務委任契約 | 葬儀・片付け・解約など死後の手続きを依頼 | 元気なうちに |
| 公正証書遺言 | 財産の遺し方・遺言執行者を定める | 判断能力があるうちに |
法務省は任意後見制度について、「将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公正証書で締結しておく制度」と説明しています(法務省ウェブサイト)。今回の法改正はこの考え方をさらに推進するものです。
まとめ
成年後見制度「終身制」廃止と備えのポイント
- 2025年成立の改正法により、後見の「終身制」は廃止の方向へ。必要な期間だけ後見を利用できる制度へ転換される
- 改正の施行は段階的であり、すでに後見を受けている方の後見が自動終了するわけではない
- 任意後見制度(元気なうちに自分で後見人を選ぶ)の重要性は改正後もむしろ高まっている
- 後見制度は身元保証・死後事務をカバーしないため、これらは別途契約で備える必要がある
- 判断能力が低下したときの備えは、任意後見・事務委任・身元保証・死後事務委任を組み合わせて整えることが現実的
- いずれの契約も、判断能力があるうちに準備することが大前提
