相続が始まったとき、最初にやるべきことは「誰が・何を・どこへ連絡するか」を家族全員で共有できる一覧を作ることです。手続きは多岐にわたり、それぞれに期限や担当窓口が異なります。この記事では、家族で一緒に作れる手続きリストと連絡先の整理方法を、実務の流れに沿って具体的に解説します。
家族で作る手続き・連絡先一覧のポイント
- 国内の死亡届は死亡の事実を知った日から7日以内。火葬許可申請など、早期に対応する手続きから順番に整理する
- 金融機関・不動産・年金など、連絡先ごとに「窓口名・電話番号・必要書類」をセットで書き出す
- 相続人ごとに「担当者」を決めると、抜け漏れや重複を防ぎやすい
- 書類が揃っていなくても専門家への相談は始められる
1. 一覧を作る前に確認すること

手続きリストを作る前に、家族でまず把握しておくべき情報が3つあります。これらが整理されていると、一覧の精度が大きく上がります。
確認すべき3つの基本情報
「被相続人」とは
亡くなった方のことを法律上「被相続人」と呼びます。相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの経歴(本籍地・転籍歴・婚姻歴など)が書類収集の範囲を左右します。 関連する内容は「相続における戸籍謄本の取得完全ガイド|生まれてから死ぬまでの戸籍収集方法」でも解説しています。
- 遺言書の有無:自宅の金庫、銀行の貸金庫、公証役場(公正証書遺言)、法務局(自筆証書遺言保管制度)を確認します。遺言書があるかどうかで、その後の手続きの流れが根本的に変わります。
- 法定相続人の範囲:民法で定められた相続人(配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹)を、戸籍をたどって確定します。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
- 財産・負債の概要:プラスの財産(不動産・預貯金・有価証券等)とマイナスの財産(ローン・借入金・未払い費用等)の両方を書き出します。負債が大きい場合は、相続放棄の検討も必要になります。
2. 時系列で整理する手続きの全体像

相続手続きには、法律や行政上の期限があるものとないものが混在します。期限付きのものから優先順位をつけて一覧に組み込むと、家族間での役割分担がしやすくなります。
| 期限・実施時期 | 手続きの内容 | 主な連絡・申請先 |
|---|---|---|
| 死亡の事実を知った日から7日以内(国内の場合) | 死亡届の提出、火葬許可申請 | 市区町村役場(死亡者の死亡地・本籍地、または届出人の所在地) |
| 死亡後すみやかに | 遺言書の有無の確認、健康保険・年金の資格喪失届 | 加入先の保険者、年金事務所・市区町村 |
| 自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3か月以内 | 相続放棄・限定承認の検討と申述(必要な場合) | 家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄) |
| 相続開始を知った日の翌日から4か月以内 | 被相続人の所得税の準確定申告(申告が必要な場合) | 税務署(税理士への相談を推奨) |
| 不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内(遺産分割後は分割の日から3年以内) | 不動産の相続登記(2024年4月より義務化) | 法務局(不動産所在地を管轄)/司法書士 |
| 死亡を知った日の翌日から10か月以内 | 相続税申告・納付(課税対象の場合) | 税務署(税理士への相談を推奨) |
| 期限の定めなし(早めが望ましい) | 預貯金の名義変更・解約、不動産以外の各種名義変更 | 各金融機関、自動車販売店・運輸局等 |
上の表には法定の期限がある手続きと、早めの対応を勧める手続きが含まれます。法定期限は、各手続きの対象・起算点を確認して守る必要があります。相続放棄の申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から原則3か月以内、準確定申告は申告が必要な場合に相続開始を知った日の翌日から4か月以内、相続税申告は死亡を知った日の翌日から10か月以内です(裁判所「相続の放棄の申述」、国税庁「No.2022」「No.4202」参照)。不動産の相続登記について、2024年4月1日より前に相続で取得を知っていた未登記の不動産は、2027年3月31日までに登記申請を行う経過措置が設けられています(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」参照)。各手続きの起算点や条件は個別の状況によって異なります。期限に不安がある場合は、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
3. 家族で作る「連絡先一覧」の書き方
連絡先の一覧は、「どの手続きに」「どこへ連絡するか」「何を持っていくか」を1行にまとめると、担当者が変わっても迷わず動けます。以下は記入例のひな型です(架空の記入例です。個人情報は入れないでください)。
| 手続きの内容 | 連絡・申請先 | 窓口・部署名 | 主な持ち物・書類 | 担当家族 | 完了日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 死亡届・火葬許可申請 | ○○市役所 | 市民課 | 死亡診断書 | (氏名) | |
| 健康保険の資格喪失届 | 加入先の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村 | 担当窓口 | 保険証、死亡を証明する書類 | (氏名) | |
| 年金の受給停止手続き | 年金事務所または市区町村 | 国民年金課等 | 年金証書、死亡届の写し等 | (氏名) | |
| 預貯金の相続手続き | 各金融機関の窓口 | 相続センター等 | 戸籍謄本一式、遺産分割協議書、印鑑証明書 | (氏名) | |
| 不動産の相続登記 | 法務局(管轄登記所) | 不動産登記部門 | 登記申請書、戸籍謄本一式、固定資産税評価証明書等 | (氏名) | |
| 相続税申告 | 税務署(被相続人の住所地管轄) | 資産課税部門 | 財産目録、各種評価証明書等 | 税理士へ依頼 |
上の表は記入の参考にするための架空の例です。実際に使う際は、各金融機関や役所に事前確認のうえ、必要書類をその都度確かめてください。金融機関によって必要書類や提出書式が異なります。
4. 手続きごとの専門家の役割分担
相続手続きには、行政書士・司法書士・税理士・弁護士など複数の専門家が関わります。それぞれの対応範囲を把握することで、誰に相談すれば解決できるかが明確になります。
| 専門家 | 主に対応できる手続き |
|---|---|
| 行政書士 | 遺産分割協議書の作成、相続関係説明図の作成、戸籍等の書類収集代行、各種届出書類の作成支援 |
| 司法書士 | 不動産の相続登記(法務局への申請)、相続放棄の申述書作成支援 |
| 税理士 | 相続税の申告・納付、準確定申告、生前の税務対策 |
| 弁護士 | 相続人間の紛争解決・交渉代理、遺留分侵害額請求、調停・審判の代理 |
行政書士は、遺産分割の争いの交渉代理や不動産登記の申請、税務申告を行うことはできません。手続きの性質に応じて、適切な専門家へ相談することが重要です。どの専門家に相談すべきか迷う場合は、まず行政書士や弁護士に概要を伝えて適切な窓口を案内してもらう方法も有効です。
5. 書類収集チェックリスト
連絡先一覧と並行して、必要書類の収集状況を管理するチェックリストも用意しておくと、手続きがスムーズに進みます。
被相続人に関する書類
- 出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
- 住民票の除票(本籍記載のもの)
- 死亡診断書のコピー(複数部)
相続人全員に関する書類
- 現在の戸籍謄本(相続人全員分)
- 住民票(相続人全員分)
- 印鑑登録証明書(遺産分割協議書作成時に必要)
財産・負債に関する書類
- 不動産登記事項証明書(法務局で取得)
- 固定資産税評価証明書(市区町村で取得)
- 預貯金の残高証明書(各金融機関で取得)
- 有価証券の残高証明書(証券会社等で取得)
- 借入金・ローンの残高証明書(金融機関等で取得)
- 生命保険証書(保険会社へ連絡して手続き開始)
書類がすべて揃っていなくても、専門家への相談は始めることができます。まず概要を伝えて、何から集めるべきかを確認するだけでも、手続き全体の見通しが立ちやすくなります。
6. 家族内の役割分担の考え方
相続手続きは一人で抱え込まず、家族で分担することが長続きのコツです。以下の視点で役割を決めると、抜け漏れを防ぎやすくなります。
- 窓口担当:各機関への電話・来庁・書類の提出を担う人。平日に動ける人が適しています。
- 書類管理担当:取得した書類を種類別にまとめ、手続き状況を一覧で更新する人。
- 連絡調整担当:相続人全員への情報共有、専門家とのやり取りを取りまとめる人。
不動産の相続登記については、法務省が「相続登記の申請義務化に関するQ&A」として制度の概要を公開しています(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html)。2024年4月1日以降に相続が発生した場合も、それ以前に発生していた相続についても、一定の条件のもとで申請義務の対象となる場合があります。2024年4月1日より前に不動産を相続で取得したことを知っていた場合の経過措置期限は2027年3月31日です。
よくある質問(FAQ)
Q. 相続が始まったとき、最初に連絡すべき場所はどこですか?
A. 最初に動く手続きは死亡届の提出で、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村役場へ提出します(京都市「死亡届」参照)。これと同時に火葬許可申請も行い、火葬許可証を取得します。葬儀社が代行してくれるケースが多いですが、相続人として内容を確認しておくことが大切です。
Q. 書類や情報が揃っていない段階で専門家に相談してもよいですか?
A. はい、相談は書類が揃ってからでなくても構いません。財産の概要や相続人の大まかな状況を伝えるだけで、どの書類から集めるべきか、どの専門家に依頼すべきかを案内してもらえます。むしろ早めに相談することで、期限のある手続きを見落とすリスクを下げることができます。 関連する内容は「相続と贈与の相談はどこにすべき?専門家選びのポイントと手続きの進め方を徹底解説」でも解説しています。
Q. 相続手続きはすべて行政書士に任せられますか?
A. 行政書士は、遺産分割協議書の作成、相続関係説明図の作成、戸籍等の書類収集代行などを担当できます。ただし、不動産の相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士、相続人間の争いの解決は弁護士の業務範囲です。手続きの内容によって依頼先が変わるため、まず全体像を把握したうえで適切な専門家へ相談することをおすすめします。 関連する内容は「相続手続き最初に行うべき基本事項|必要書類と進め方を専門家が解説」でも解説しています。
Q. 相続登記の期限はいつまでですか?
A. 不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。遺産分割によって不動産を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内です。なお、2024年4月1日より前にすでに相続で取得を知っていた未登記の不動産については、2027年3月31日までに申請すれば足りる経過措置が設けられています(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html 参照)。
Q. 相続放棄はいつまでに手続きが必要ですか?
A. 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります(裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html 参照)。期間の延長が認められる場合もあるため、判断に迷う場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
家族で作る手続き・連絡先一覧の要点
- まず「遺言書の有無」「相続人の範囲」「財産・負債の概要」を確認し、一覧の土台を作る
- 手続きを期限のあるものから順番に整理し、「連絡先・必要書類・担当者・完了日」をセットで記録する
- 死亡届は死亡の事実を知った日から7日以内、相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3か月以内、準確定申告は申告が必要な場合に相続開始を知った日の翌日から4か月以内、相続税申告は死亡を知った日の翌日から10か月以内が法定の期限。申告の要否や各期限の起算点を確認する
- 不動産の相続登記は不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内(遺産分割後は分割の日から3年以内)。2024年4月1日より前に取得を知っていた未登記不動産は2027年3月31日までの経過措置あり
- 行政書士・司法書士・税理士・弁護士の役割を区別し、手続きの内容に合った専門家へ相談する
- 書類が揃っていなくても相談は始められる。早めに動くことで期限の見落としを防げる
- 家族内で「窓口担当」「書類管理担当」「連絡調整担当」を決めると、役割の重複や抜け漏れを防ぎやすい
