
新しい事業を始める前に最初に確認すべきことは、「その事業に行政の許可・免許・登録・届出が必要かどうか」です。許可が必要な業種を無許可で営業した場合、行政処分や刑事罰の対象となる可能性があります。事務所を契約してから、あるいは従業員を採用してから要件を満たしていないことが判明するケースがあるため、事業計画の段階で許認可の要否を調べることが手戻りを防ぐ最も有効な方法です。
事業開始前に確認すべき要点
- 業種によっては、営業開始前に都道府県知事または国の許可・免許・登録が必要になる(許可なしで営業すると行政処分・刑事罰の対象になりうる)
- 「許可」と「届出」は法的な性質が異なる。許可は行政の事前審査が必要で、届出は事実を行政機関に通知する行為で原則として許諾を必要としない
- 法人を設立しただけでは許認可は得られない。定款の事業目的・人員・施設の要件を別途確認する必要がある
- 事業内容・規模・取引の形態によって必要な許認可の区分が変わるため、「業種名」だけで判断せず実際の業務内容で確認する
1. 「許可」と「届出」の違いを理解する
許認可の要否を調べる前提として、「許可」「免許」「登録」「届出」の違いを整理しておくことが重要です。これらは法的な効果と手続きの性質が異なります。
主な行政手続きの種類と定義
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 許可 | 法令上禁止されている行為を、特定の条件を満たした者に対して行政が解除する処分。審査があり、要件を満たさなければ許可されない | 建設業許可、産業廃棄物収集運搬業許可、古物商許可 |
| 免許 | 許可と同様に行政の審査を経て付与される。特に資格・能力の認定を含む場合に用いられる | 宅地建物取引業免許 |
| 登録 | 一定の資格・要件を満たす者が名簿等に記載される手続き。届出より審査が厳しく、許可より緩やかな場合が多い | 登録支援機関の登録 |
| 届出 | 一定の事実を行政機関に通知する行為。原則として行政の許諾を必要とせず、要件を備えた届出書を提出することで効力が生じる | 事業開始届、変更届 |
届出は許可と異なり審査を伴わないことが多いため「簡単な手続き」と思われがちですが、届出の提出が法律上の義務である場合は期限どおりに提出しなければ義務違反になります。許可と届出を区別して管理することが重要です。
2. どの業種に許認可が必要かを調べる方法
許認可が必要かどうかは、事業の「業種名」だけでなく、実際に行う業務の内容・取引の形態・規模によって判断します。以下の順序で確認を進めると整理しやすくなります。
業務内容を具体的に書き出す
まず、事業で実際に行う作業・サービス・商品の売買の形態を箇条書きで整理します。「建設工事をする」「中古品を仕入れて販売する」「廃棄物を運搬する」「不動産の売買を仲介する」のように、誰に対して何をするかを具体化することが出発点です。業種の名称が決まっていても、実態の業務が異なれば必要な許認可も変わります。
根拠となる法令を確認する
業種ごとに許認可の根拠となる法律が異なります。代表的な例を以下に示します。
| 業種の例 | 根拠法令 | 許認可の種類 | 主な管轄 |
|---|---|---|---|
| 建設工事の請負 | 建設業法 | 建設業許可 | 都道府県知事または国土交通大臣 |
| 宅地・建物の売買・仲介 | 宅地建物取引業法 | 宅建業免許 | 都道府県知事または国土交通大臣 |
| 産業廃棄物の収集運搬 | 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法) | 産業廃棄物収集運搬業許可 | 都道府県知事・政令市長 |
| 中古品の売買・交換 | 古物営業法 | 古物商許可 | 公安委員会(警察署経由) |
| 飲食店の営業 | 食品衛生法 | 飲食店営業許可 | 保健所(都道府県・政令市) |
| 旅館・ホテルの営業 | 旅館業法 | 旅館業許可 | 都道府県知事(保健所) |
| 人材派遣業 | 労働者派遣法 | 労働者派遣事業許可 | 厚生労働大臣(ハローワーク経由) |
注意点・例外
- 建設業法では、「軽微な建設工事のみ」を請け負う場合は許可が不要とされています(建設業法第3条第1項ただし書き)。ただし、軽微な工事の範囲は工事の種類・金額によって定められているため、請負金額だけで判断せず法令の規定を確認してください
- 廃棄物処理法では、自社から排出した廃棄物を自ら運ぶ場合(自社運搬)は、他者から委託を受けて運ぶ場合と確認事項が異なります
- 同じ「運搬」でも、一般廃棄物・産業廃棄物・特別管理産業廃棄物では根拠法令と申請先が異なります
- 食品・薬事・風俗・金融など業種によっては複数の法令が重なる場合があります
申請先の窓口と管轄を確認する
許認可の申請先は業種と事業者の営業所の所在地によって決まります。同一都道府県内にのみ営業所を置く場合は知事許可、複数の都道府県に営業所を置く場合は大臣許可を検討するケースが建設業・宅建業で代表的です。管轄が都道府県なのか政令市なのか、窓口となる担当部署がどこかは、各行政機関の公式サイトまたは直接問い合わせて確認します。
埼玉県内で事業を行う場合は、埼玉県の担当部局(建設業であれば埼玉県県土整備部、産業廃棄物であれば埼玉県環境部など)が主な確認先になりますが、業種によって窓口が異なるため、根拠法令を特定したうえで管轄機関を調べることが確実です。
3. 許認可の要否を判断するための具体的な確認手順
「自分の事業に許可が要るかどうか分からない」という段階から整理するための手順を示します。
① 事業内容を書き出し、類似する法律上の定義と照らし合わせる
各許認可法令には「この法律でいう○○とは〜をいう」という定義規定があります。たとえば建設業法第2条は「建設業」「建設工事」「下請契約」の定義を定めています。自社が行う業務が法律上の定義に当てはまるかを確認することが判断の出発点です。業種の名称が同じでも、取引の形態(元請けか下請けか、販売か仲介かなど)によって該当する許認可が変わります。
② 所管行政機関の手引き・申請案内を入手する
各行政機関は許認可ごとに「申請の手引き」「許可基準」「よくある質問」等を公表しています。これらの資料には、許可が必要な場合・不要な場合の区分や、必要書類・要件が整理されています。インターネットで「業種名+許可+手引き+都道府県名」で検索すると多くの場合公式資料にたどり着けます。
③ 許可要件(人・物・財産)を自社の現状と照らし合わせる
多くの許認可には「人的要件(専任技術者・有資格者の配置など)」「物的要件(営業所・施設・車両など)」「財産的要件(純資産額・資本金など)」が設けられています。申請前にこれらの要件を満たしているかを確認し、不足している場合は申請の準備期間として見込んでおく必要があります。
仮の例(確認の流れイメージ)
仮に「解体工事を請け負いたい」という事業計画がある場合、確認の流れはおおむね次のようになります。(以下は説明のための仮の例であり、実際の要件は建設業法および管轄行政機関の手引きで確認してください)
- 請負金額・工事の種類を確認し、建設業許可が必要な規模かを建設業法第3条で確認する
- 許可業種(解体工事業)の専任技術者となれる資格・実務経験の要件を確認する
- 営業所の実態・使用権限が要件を満たすか確認する
- 財産的基礎(純資産額など)の要件を確認する
- 埼玉県への申請手順・必要書類を手引きで確認する
④ 法人設立と許認可の取得順序を計画する
法人を設立してから許認可を申請する場合、定款の「事業目的」に許認可に対応する記載が必要なケースがあります。また、役員や専任技術者の要件が法人設立後の体制に依存するため、会社設立・物件契約・許可申請の順序を先に整理してから各手続きを進めることが重要です。設立後に「定款の目的が申請要件に合わない」と判明した場合、定款変更と登記が追加で必要になります。登記手続きは司法書士の業務領域です。
4. 開業前に確認しておくべき追加の手続き
許認可の取得だけで事業が始められるわけではありません。業種によっては、許認可とは別に以下の確認が必要です。
- 税務署への開業届出:個人事業主として事業を開始する場合、所得税法上の開業届を税務署に提出する義務があります(所得税法第229条)。税務の手続きは税理士の業務領域です
- 労働・社会保険の手続き:従業員を雇用する場合、労働保険(労災・雇用保険)・社会保険(健康保険・厚生年金)の加入手続きが必要です。労務の手続きは社会保険労務士の業務領域です
- 施設・設備の確認:飲食店・旅館など施設を使用する業種は、建築基準法・消防法上の確認が別途必要になる場合があります
- 外国人を雇用する場合の在留資格確認:採用予定の外国人の在留資格が、実際の業務内容と合致するかを確認する必要があります
許認可の申請と並行してこれらの手続きが必要になる場合、それぞれの専門家(税理士・社会保険労務士・司法書士など)との連携を検討してください。行政書士は許認可申請の書類作成・申請を担いますが、登記・税務・労務は各専門家の業務です。
許認可に関連する手続きの詳細については、以下の記事も参考にしてください。
- 許認可・法人設立の手続きと準備事項の概要
- 産業廃棄物収集運搬業許可の申請に必要な確認事項
- 事業の許認可と法人情報をまとめる管理台帳の作り方
5. よくある質問(FAQ)
Q. 法人を設立すれば自動的に許可も得られますか?
A. いいえ、法人の設立と許認可の取得は別の手続きです。会社を設立しただけでは、建設業・宅建業・産業廃棄物収集運搬業などの許可は付与されません。許可を受けるためには、設立した法人が各法律の定める人的要件・物的要件・財産的要件を満たしたうえで、管轄行政機関へ申請し審査を受ける必要があります。定款の事業目的が許認可に対応しているかも確認が必要です。
Q. 許可申請の前に事務所を借りてしまいました。問題がありますか?
A. 申請条件によっては問題が生じる場合があります。たとえば宅建業免許では、事務所の独立性・使用権限・配置が申請要件に合致しているかが審査されます。住宅や他社との共用スペースを利用する場合、契約後に要件を満たさないと判明するケースがあります。物件を契約する前に、その物件が許認可の申請要件に適合するかを確認することが手戻りを防ぐ方法です。
Q. 届出だけで済む事業と許可が必要な事業をどう見分けますか?
A. 根拠となる法令の規定によって判断します。許可が必要な場合は法令に「○○の許可を受けなければならない」と定められており、届出で足りる場合は「○○を届け出なければならない」と規定されています。業種の名称だけで判断せず、実際に行う業務と法令の定義を照らし合わせ、所管行政機関の手引きで確認することが確実です。判断に迷う場合は所管窓口または行政書士への相談が有効です。
Q. 許可を取得した後に変更が生じた場合はどうすればよいですか?
A. 許可取得後も、役員・営業所・専任技術者・取扱品目などに変更が生じた場合は、変更届の提出や変更許可の取得が必要になるケースがあります。変更後にまとめて手続きをするのではなく、変更の計画が決まった段階で管轄行政機関または行政書士へ確認することを推奨します。また、多くの許認可には有効期間があり、期限前に更新申請が必要です。許可通知書に記載された有効期限を管理台帳などで記録し、期限を見落とさないようにすることが重要です。
まとめ
新しい事業を始める前に許可と届出の要否を調べるうえでの要点を整理します。
- 「許可」「免許」「登録」「届出」は法的な性質が異なる。業種ごとに根拠法令を確認し、自社の業務内容が法律上の定義に当てはまるかを照らし合わせることが判断の起点
- 業種名だけで許認可の要否を判断せず、取引の形態・規模・営業所の所在地によって必要な許可の区分が変わることを念頭に置く
- 許可には人的要件・物的要件・財産的要件があるため、事務所の契約や採用より前に要件を確認し、法人設立・物件契約・許可申請の順序を計画する
- 許認可の取得後も変更届・更新申請の管理が必要。登記・税務・労務は各専門家の業務であり、行政書士が担う許認可申請と区別して連携を整える
- 判断に迷う場合は所管行政機関の手引きを確認し、不明点は窓口または専門家へ相談することで手戻りを防げる
